日本の奥深い伝統を探る旅は、岩手県奥州市にある黒石寺の蘇民祭から始まります。
この祭りは、ただの祭りではありません。1000年以上の歴史を持ち、日本三大奇祭あるいは日本三大裸祭りに数えられることもある、非常にユニークな文化行事です。
蘇民祭の起源
蘇民祭の起源は、『備後国風土記』の逸文に記された伝説にまで遡ります。
それは、武塔神が人間に化身し、蘇民将来という貧しい男に宿を求めた話から始まります。
蘇民将来は武塔神をもてなし、その恩恵として、彼の子孫は無病息災であると約束されました。
この伝説が蘇民祭の基となり、平安時代中期にはその原形が出来上がっていたとされています。
黒石寺蘇民祭の概要
黒石寺蘇民祭は、旧暦正月7日の夜から翌8日の暁にかけて行われます。
祭りに参加する男性は、祭の1週間前から精進潔斎に励みます。
肉、魚、ニラやニンニクなどの臭いの強い食物を避け、神聖な心持ちで祭りに臨むのです。
祭りは、22時に鳴らされる梵鐘の音を合図に始まります。参加者は浄飯米を持ち、水垢離をした後、本堂を三巡し、五穀豊穣を祈願します。
そして、23時30分には全裸に下帯のみを身に付けた男たちが、福物の柴燈木を掲げながら行進します。これは、災厄を払い、安全を祈る行事です。
祭りのクライマックス:蘇民袋争奪戦
祭りのハイライトは、蘇民袋争奪戦です。
これは、五穀豊穣と無病息災を願い、蘇民袋と呼ばれる麻袋を男たちが奪い合う儀式です。
袋を奪った者の地域がその年の豊作を約束されると言われています。この激しい争奪戦は、氷点下の寒さの中、明け方まで続きます。
祭りの未来
しかし、関係者の高齢化と担い手不足が問題となり、2024年をもって黒石寺蘇民祭はその長い歴史に幕を下ろすことになりました。
この伝統を未来に継承するため、護摩祈祷を続ける方針が発表されています。
黒石寺蘇民祭は、ただの裸祭りではなく、人々の信仰と共同体の絆を象徴する祭りです。
その歴史と伝統は、日本の文化的アイデンティティの一部として、これからも大切にされるべきです。
この祭りが終わるというのは、単に一つのイベントがなくなるということではなく、日本の豊かな民俗文化の一ページが閉じられることを意味します。
だからこそ、私たちはこの祭りを記憶に留め、未来に語り継ぐ責任があるのです。